王国のことに首をつっこんだら、チャク（船虫）のようにつぶされる
虚空の旅人

作者	上橋菜穂子
絵	佐竹美保
分野	ハイファンタジー
発売日	2001年8月第1刷
価格	1500円
出版	偕成社

導入
新ヨゴ皇国の皇太子チャグムが側近シュガとともに、
隣国サンガル王国の＜新王即位ノ儀＞に向うこととなった。
サンガル王国は、北の大陸から突き出した半島に本拠こそ持つが、
南の大陸につながるヤルターシ海にうかぶ多島海エリアを支配する海洋国家である。

そして＜新王即位ノ儀＞の裏で、南の大国タルシュ帝国の呪術師がすすめる、
ヤルターシ海域全体どころか北の大陸諸国家をも滅亡に導きかねない、
鋭利な対サンガル王国への陰謀。
その中で、陰謀に巻き込まれ、翻弄されゆく人間たちにたいしての、
深い同情を抱くチャグムは、一体どう動くのであろうか。

感想
守り人シリーズ外伝、そのためバルサは未登場。
『精霊の守り人』から数えて4冊目に当たる。
サンガル王家の体面、皇子としての立場など、多くの環境が、チャグムの足を引っ張る中、
必死に謀略に巻き込まれた人間を救い出そうとする姿とチャグムの成長と決意が印象的な作品。
その姿は、冷徹な政治家である、サンガル王の長女であるカリーナ王女や、
謀略の首謀者であるヨゴ人の呪術師ヤトノイ・ラスグと対照的である。
上橋氏は、どうやら政治的ともいえる発想を、好きではない様で、
『虚空の旅人』以外でも、『闇の守り人』のユグロ、『神の守り人』のシハナなど、
人間を道具や駒としか見ない冷酷な人間を主人公バルサの敵役に据えてきている。
この作品でもその流れに順じているといえるだろう。

一般人であり厳しい運命を背負うバルサの場合、その発想はむしろ必然に近いが、
皇太子であるチャグムの場合、バルサと似た考えにいたる理由はともかくも、
皇族としてそれはどうよ？となってしまう。
もちろんチャグムの葛藤を見ても、上橋氏もその矛盾を理解してることは間違いなく、
上橋氏がチャグムにどのような運命を用意しているのか、非常に気になる所である。



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