「殿下乗合事件」を扱った小説やマンガ作品の比較

「殿下乗合事件」を扱った
小説やマンガ作品の比較

「平家物語」や源平合戦を舞台にした小説やマンガ等々を幾つか読んで、作品によって「殿下乗合事件(てんがののりあいじけん)」の展開が結構違っていたので、その比較。ここで取り上げる「殿下乗合事件」は、「嘉応かおう二年（一一七〇）に現実にあった摂政せつしよう基房もとふさと平清盛たいらのきよもり嫡孫資盛すけもりの間に起きた衝突とその報復事件」で、「『平家物語』が『平家悪行の初め』と位置づけ取り込んだ説話」(引用は「源平合戦事典」より)。殿下乗合事件の顛末は大雑把に言って、基房に対する報復の首謀者が清盛の「平家物語」、首謀者が重盛の「玉葉」や「愚管抄」などの史料系があり、「平家物語」や源平合戦を題材にした小説等々においても、首謀者が清盛か重盛かでわかれています。

	乱闘日時	時刻	基房	資盛		重盛の反応	基房の謝罪	報復する人	報復日時
角川文庫緑 395-20　平家物語巻之四	10月16日	夕方	御所	馬	鷹狩り	清盛を諫める	無し	清盛	21日
マンガ平家物語（上巻）	嘉応2年	（特に無し）	（特に無し）	馬	（特に無し）	清盛を諫める	無し	清盛	5日後
マンガ平家物語　清盛篇	初冬	（特に無し）	（特に無し）	馬	狩り	清盛を諫める	無し	清盛	（特に無し）
中公文庫 S 14-10　マンガ日本の古典10 平家物語（上）	（特に無し）	夕方	（特に無し）	馬	鷹狩り	清盛を諫める	無し	清盛	（特に無し）
くもんのまんが古典文学館　平家物語	（特に無し）	（特に無し）	（特に無し）	馬	（特に無し）	（未登場）	無し	清盛	（特に無し）
英語で読む平家物語［上］	（特に無し）	夕刻	（特に無し）	馬	狩り	（特に無し）	無し	清盛	高倉天皇の御元服の日
徳間文庫む 3-24　平清盛	7月3日	（特に無し）	法勝寺	女車	女通い	資盛を説教	あり	清盛	10月21日
源平盛衰記　巻の一おごる平家	7月3日	（特に無し）	法勝寺	女車	笛の帰り	資盛を説教	あり	清盛	10月21日
双調平家物語12　治承の巻	7月3日	夕方	法勝寺	女車	笛の帰り	資盛に説教	あり	清盛	10月21日
平家物語　第二巻［驕れる平氏］	7月3日	（特に無し）	法勝寺	女房車	笛の帰り	資盛に説教	無し	清盛	10月21日
ポプラポケット文庫 106-6　平清盛	7月3日	夕方	法勝寺	女車	笛の帰り	（平家のシーン無し）	あり	重盛	10月21日
吉川英治歴史時代文庫 50　新・平家物語（四）	7月3日	夕方	法勝寺	女車	笛の帰り	腹を立てる	あり	重盛	10月21日
文芸社文庫し 1-3　蒼龍の星下　覇王清盛	7月3日	（特に無し）	法勝寺	女車	（特に無し）	（不明）	あり	重盛	10月21日
小説平清盛	7月3日	（特に無し）	（特に無し）	女房車	（特に無し）	腹を立てる	あり	重盛	10月24日
宮尾本平家物語　二白虎之巻	7月3日	夕方	参内	馬	鷹狩り	資盛に説教	無し	重盛	10月21日
平家　中巻	7月のある日	（特に無し）	法勝寺	輿	狩猟	腹を立てる	あり	重盛	10月21日
永井路子歴史小説全集　第七巻より「波のかたみ」	7月	（特に無し）	法勝寺	車	（特に無し）	腹を立てる	あり	重盛	（特に無し）
講談社火の鳥伝記文庫28　平清盛あらそう白旗と赤旗	10月	夕ぐれ	御所	馬	鷹狩り	資盛に説教	無し	重盛	5日ほどすぎたある日
あすかコミックスDX　平家物語シリーズ月の船、星の林より「花追慕」	（特に無し？）	夕方	（特に無し）	馬	鷹狩り	腹を立てる	あり？	重盛	21日
NHK大河ドラマ『平清盛「第37回殿下乗合事件」』	7月3日	日中	（特に無し）	輿	鷹狩り	資盛に説教	あり	重盛？	10月21日
平清盛　四	7月3日	夕刻	（特に無し）	輿	鷹狩り	資盛に説教	あり	重盛？	10月21日
PHP文庫な 12-6　平清盛時代を切り拓いた武家の棟梁	10月	夕方	大内裏	馬	小鷹狩	腹を立てる	あり	郎党など	10月21日

報復の首謀者が清盛の場合ですが、この場合は基本的に古典をそのままなぞる展開。資盛が「馬」は「平家物語」、「女車」だと「源平盛衰記」になりますね。この傾向は、参考書籍が古典のマンガ化など、古典の描写を再現するものが多かったためというのもありそうです。一方、報復の首謀者が重盛では、作品によってアレンジの幅が大きいのが特徴。例えば「重盛が資盛に説教した上で、重盛が報復」という展開は、「宮尾本平家物語　二白虎之巻」と「講談社火の鳥伝記文庫28　平清盛あらそう白旗と赤旗」。基房が命令して乱闘をけしかけたけれど、そのあと基房は謝罪しているパターンなんてのもあり、「平家　中巻」や「永井路子歴史小説全集　第七巻より『波のかたみ』」、「NHK大河ドラマ　平清盛『第37回殿下乗合事件』」「平清盛　四」が該当。リストにある作品のうち、「あすかコミックスDX　平家物語シリーズ月の船、星の林」より「花追慕」、「小説平清盛」、 2012年のNHK大河ドラマ『平清盛「第37回殿下乗合事件」』」とそのノベライズ版「平清盛　四」は、登場人物の反応や行動などに独自色が強く、別個に紹介。 「あすかコミックスDX　平家物語シリーズ月の船、星の林」より「花追慕」

乱闘に際して、「待て――」と乱闘を止めようとしている基房。このあと、基房が重盛に謝罪しようとしているシーンがある。（実際に謝罪したかどうかについては、描写無し）
重盛がボロボロの姿で帰って来た資盛から事情を聞き、「これは平家一門が侮られる因もととなる　摂政殿下には思い知らせずには済まされない」と静かな怒り。そんな重盛の様子を見て、「ち父上!?」とたじろぐ資盛。
報復後、資盛が重盛に「いいえ！　この資盛が不心得者だったのです」と殊勝な事を言う。

「小説平清盛」

乱闘を知った重盛は、「そなた、これほどの恥辱を受けながら、なぜおめおめと引き下がった」、「いまから摂政殿下のもとへ参じて、仇を取ってこい」と資盛の胸ぐらをつかんで激怒。
この重盛の剣幕にビビる資盛（報復後もビビったまま）。

NHK大河ドラマ『平清盛「第37回殿下乗合事件」』」(2012年)

乱闘場所が橋の上で、報復場所は橋の下。
基房は乱闘をけしかけた上で、重盛に謝罪。それでいて「平家の土台をたたき壊してやるのだ！」と鼻息の荒い事を言う。
劇中では表向き重盛が報復の首謀者という事になっているが、実際には清盛の意を汲んだ平時忠が真犯人。

ノベライズ版の「平清盛　四」では、乱闘場所と報復場所が共に「京の通り」ですから、実際に放映された番組とは描写が異なっています。。また番組では、報復事件の際に基房の行き先は明らかにされていませんが、ノベライズ版には「内裏へと進んでいく」とあります。ノベライズ版には「本書は放送台本をもとに構成したものです。番組と内容と異なることがあります」という注意書きがあり、、ノベライズ版は独自に「平家物語」を参考にしたようです。番組で乱闘場所と報復場所を「橋」にしたのは、資盛の一行と基房の一行がすれ違いえないような状況にしたかった、時忠の手の者が隠れられるような場所が欲しかったのからなのかなーと。（広い通りだと、どちらもマヌケな事になるので……）あと報復事件後に重盛が橋の上から事件現場を眺めさせる事で、現場の様子を一望しやすいシーンにしたかったのかも。

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参考資料（本文のみ） 「源平合戦事典」「宮尾本平家物語　二白虎之巻」「講談社火の鳥伝記文庫28　平清盛あらそう白旗と赤旗」「平家　中巻」「永井路子歴史小説全集　第七巻」、「NHK大河ドラマ　平清盛『第37回殿下乗合事件』」「平清盛　四」「あすかコミックスDX　平家物語シリーズ月の船、星の林」「小説平清盛」

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