春の宵、満開の桜。
疲れた脚を引き摺って初めて訪れた花街の、圧倒されるような人いきれ。
傾城

Ange

操作性
選択肢が少ないコマンド選択型ADV。
1クリアまでの時間は3時間ほど。

Caps Lockキーをロックするとメッセージ表示が速くなります。
Ctrlキーで全スキップ。
読み返しにあたる機能はありません。


音楽
いかにもといった機械音ですが遊郭ものだけあって
琴を中心とした和風っぽい雰囲気は出ています。
舞台が舞台だけに暗い曲も多いです。
全10曲。

その中では通常の日常シーンで流れている「琴線」が
暖かくも切ない曲調で気に入っていますね。


システム
選択肢が少ないコマンド選択型ADV。
画面下部のメッセージウィンドウに文章が現れ、
選択肢は右上のボックスのポップアップとともに表示されるあの形態です。

とはいえ「見る」「聞く」「話す」「考える」と言ったコマンドは存在しないので、
この場合の選択肢が少ないと言うのは『スナッチャー』とか
あの辺りと比べて少ないという意味になりますね。

要するに画面や操作周りはコマンド選択式っぽいのですが
コマンド選ぶのは移動先の場所を選ぶ際程度で
やってることは今のノベル型とほとんど変わりがありません。


そういえば、このゲームも昔のゲームらしく
インストールがまったく必要ないゲームなのですが
こういう容量が小さいゲームは昔の感想に肉付けしたり書き直すために
ちょっとPCにいれても全然負担にならないから好きです（笑）


設定・シナリオ
奉公先の遊郭、紅藍楼。
何もかもが珍しく、物悲しいまるで一夜の夢のような世界。
それが、主人公・良介の日常。
そこには安息など無く、
毎夜繰り返される遊女と客との秘め事、哀歓、そして陵辱。
傷口を更に抉るような数々の出来事。
繰り返される辛い日々、時折訪れる少し幸せな時間。
日に日に募る、切ない想い。

大好きなあの子を幸せにしてあげたい。
傷ついたあの子に本物の愛をあげたい。

それが良介の唯一の夢。
それさえもが良介にとっては夢……。

何が真実か、何が本当なのかを見極めてください。
辛いことも悲しいことも、彼女のために耐えてください。
その先に、大好きな彼女が待っていると、自分を強く信じること。

良介が愛する彼女と結ばれます様に……。


幕末っぽいな世界観をもち、遊郭ものらしく暗くて退廃的な空気が漂うゲームになっています。
とは言え、それほど本格的な時代考証がされているわけではありません。


「水戸黄門」
主だったシナリオは「幼馴染編」と「武家娘編」の二つあるのですが、
そのうち幼馴染中心のシナリオは
開国前夜の激動というシチュエーションといった
プレイヤーに提示した情報を無駄なく使いきっていて、
まとまりを感じさせる出来ばえに仕上がっています。

舞台も遊郭と遊郭がある港町に限定して、
必要以上に風呂敷を広げすぎず破綻しない範囲で物語をキッチリ収めつつ、
それでいてハラハラドキドキされるという高い完成度を誇ります。
特に物語終盤のカタルシスが素晴らしいですね。

あと、このシナリオで白眉なのは主人公とヒロインの位置づけでしょうか。
例えるならば主人公とヒロインは、
水戸黄門にでてくる悪人に虐げられているゲストキャラの扱いと言えます。
ご隠居を天下の副将軍と知らぬまま、手助けすることで
どん底の主人公たちを助け出してくれるデウス・エクス・マキナな連中との
関わり方がとてもスムーズになっていました。

そのため社会的にも年齢的にも、弱者そのものである主人公やヒロインたちが
先の見えない現状から救いだされるまでがとても自然なのは素晴らしい限りです。
遊郭ものらしい主人公の強い無力感と、立志伝のような爽快さ、
加えて勧善懲悪のカタルシスを並立させている点は特筆ものでしょうね。

遊郭もののエロゲだと無力感のみの場合が多いですし
遊郭脱出を行おうとして無理が出てくるケースも多いですから
特に『傾城』の出来の良さが光っています。


もう一つのメインシナリオも悪くはないのですが
開国云々の話が主人公と関係ない部分で進んでいくので
そのあたりに弱さがありますね。

ただ、遊郭を舞台にしたゲームらしい
先の見えない暗さや主人公の無力感の表現はこちらの方が良い感じです。


独創性
システム的には特にありません。
選択肢の数が少ないコマンド選択型といって差しつかえないと思います。
（PC-98時代に多かったコマンド選択式のADVが徐々に
ビジュアルノベルなどと融合していく過程としては非常に面白味がありますけどネ。）

反面、時代もののエロゲはもともと数が少なく、
更に遊郭ものとなると数える程しかありませんので
ストーリーや世界観的には独自性が高めと言えるでしょう。


全般
心が通じ合った瞬間が悲劇の幕開けになるなどの遊郭ものらしい無力感の表現に加え
それまで押さえつけられていたものが爆発する最後のカタルシスなど
ストーリー面では非常に完成度が高いゲームです。

遊郭を舞台にしたエロゲとしては屈指の傑作と言えるでしょう
少なくともこれ以上のゲームに出会ったことはありません。

点数では８か７かで悩みました。
時代ものや遊郭ものはそれだけで個性的ですし好きな分野ですが
アドベンチャーというものはストーリーに特化しているだけに
得てしてプレイしてから時間がたつとストーリーの記憶の劣化とともに
どんどん評価が落ちていく傾向があります。

なので７ぐらいにしておけば下げ幅も少なかろうと思い７にしていたのですが
他の遊郭もののエロゲとの比較で考えると７では低すぎる感が拭えず
結局迷った末に８にすることにしました。

点数は所詮は相対的なものですのでそのあたりはご容赦アレ。


得点８点

戻る