久遠の闇より黒き者……『漆黒の魔王』！
BE-YOND

elf

操作性
1996年にシルキーズから発売したPC-98の18禁ゲームソフト
「ビ・ヨンド〜黒大将に見られてる〜」のWindows移植版。 

移植にあたってオリジナル版からの変更点としては
グラフィックのハイカラー化、フルボイス化、立ち絵の表示、
３Ｄムービーの追加、ＢＧＭのリニューアルなどがあります。
（以下、Windows移植版を『BE-YOND』と表記）


『BE-YOND』そのものについては、
終盤に戦闘パートがあるＳＦの世界観が舞台のコマンド選択式ＡＤＶです。

操作はキーボード・マウス両対応。
既読スキップや読み返し機能のほか、
ＣＧモード、シーン回想、サウンドモード以外にも、
ＥＤ閲覧やムービー閲覧といった機能もあります。


音楽
コミカルな曲が多いです。
この中では、それぞれブラスバンド調で勇壮な、
「銀河連合警察」「馬鹿者達の行進」「黒大将に見られてる」でしょうか。


システム
基本的には見る・話す・考えるといったコマンド群の中から
行動を選択していく極々一般的なコマンド選択式ＡＤＶです。
ただ場所移動のコマンドはないですし、途中で詰まるような事はないでしょう。


「戦闘パートの挿入の仕方がヘタ」
『BE-YOND』では終盤に戦闘パートが発生します。

戦闘パートは３種類あるので個別の内容の解説は省きますが、
ミニゲームの域を出ない出来に加えて、それぞれ１回ずつしか発生しないため
ゲーム中で浮いているというか中途半端な存在になってしまっています。

もっとも厄介なのは３種類ともリアルタイム制にも関わらず、
何の前振りや説明がないまま戦闘パートが開始される点でしょう。
このため最初の戦闘パートでは、突然始まった戦闘パートに全く対応できず
呆気なくゲームオーバーになる羽目に。
何度もゲームオーバーを繰り返すことで
操作とゲージの意味を理解してようやくクリアできたほどです。

筆者は戦闘パートのようなものを導入する事そのものには、
それほど否定的な立場ではありませんが……

『戦国の妹 七人の妹』でも指摘しましたが、
ＡＤＶは古くから「電脳紙芝居」と揶揄されるように基本的に読むだけなので
ミニゲーム的な戦闘パートとは食い合わせが悪いんですよね。

特にミニゲームが一回だけぽんっと突然挿入されるようなケースは、
ゲームプレイのテンポが大きく狂わされやすいのです。

それだけに終盤にリアルタイム制の戦闘パートを入れたいのであれば、
１種類に絞って序盤から何度か戦闘パートを発生させるなど、
ミニゲームの存在とルールにプレイヤーを慣らしていく工夫が欲しかったです。

説明も前振りもなく、終盤に３種類ものミニゲームを挿入して
しかもそれぞれ１回しか発生しないというのは、考えなしだったように思えます。


設定・シナリオ
久遠の闇より黒き者……『漆黒の魔王』
記憶を失い、気がついたら『魔王』になっていた主人公。
『魔王』としての自覚もないまま彼は『シモベ』と自称する少女を伴ない、あてもなく宇宙を漂う。

彷徨の中で平和な暮らしを望む主人公。
しかし世間の『魔王』に対する風当たりは厳しく、彼のやる事なす事全てが裏目に出てしまう。
更には様々に出会う少女たちが混乱に拍車をかけ、事態は思いがけない方向に…。
だが、これはまだ抱腹絶倒ドタバタ宇宙劇の始まりに過ぎなかった。
果たして彼の行く末に待ち受けているものとは、一体……。


全体を貫くコミカルな展開と、
コマンド選択式というゲームシステムによる主人公の多彩なボケが相俟って、
非常にテンポ良く話が進んでいきます。

ただ全体的に「他人の不幸で笑いを取る」傾向があるのが気になる所。
落語家の桂枝雀(かつら しじゃく)の言葉で言えば、「困り」がきつ過ぎるように思います。



	

        
枝　雀　「困り」ということは「緊張」ですわね。
「困り」がきつすぎたり、我が身に降りかかってきたら笑いごっちゃおまへんさかい、
「他人のちょっとしたヽヽヽヽヽヽヽヽヽ」という但し書きが付いてまんねん。

    
	

        
「ちくま文庫 か 18-1　らくごDE枝雀」より

    



ゲーム終盤になるとシリアスな展開になるのですが、
意外性があるというよりも唐突感ばかりが印象に残ってしまいました。
『キャッスルファンタジア』でも引用した
ゲームシナリオライターの仕事 名作ＲＰＧに学ぶシナリオ創作術が言う所の

「ゲームは小説や漫画などと異なり、
　セリフや情報を読み返しにくいジャンルだということです。
　大切な事は２回繰り返す事です」

「ゲームの場合、プレイヤーの多くがプレイの途中でセーブして、
　一晩寝るとかなりの事を忘れてしまいます。
　ましてや、週末にしかゲームを遊べないプレイヤーは、尚更です。
　細かい事までは、なかなか覚えてはもらえません」

という、「繰り返す情報」をしっかり使い分けて
もう少し上手に段階やら伏線を踏んで欲しかったと思います。
序盤にチョロっと臭いこと一回書いたからそこだけで十分だよね、と
言わんばかりのだったのはとても残念でした。

実は『BE-YOND』のシナリオライターさんが
携わったゲームを幾つかプレイした限り、どれも似たような感想を抱いたので
キャラクターの掛け合いと終盤のどんでん返し作りばかりに気をとられて
起承転結の中での整合性やこのようなゲームシナリオの独自性を
あまり意識できない方なんでしょうね。


独創性
これといった点は特にありませんが、挙げるとすれば世界観でしょうか。
ＳＦ物は数がそう多くないので、珍しい部類に入ると思います。


全般
点数は６。
コマンド選択式ＡＤＶの見る・話す・考えるといった
コマンドをフル活用しての主人公の面白一人芝居やテンポの良さなどはまあ結構なのですが、
終盤にもなって突然一回ずつ挿入される３種のミニゲームはどうにかならなかったのでしょうか。

テンポが大きく狂う上に、何の前触れも説明もなく突然挿入されるので
ゲームオーバーになるとすごく理不尽な感じが否めないんですよね。
そういう意味で本作も
「ＡＤＶと戦闘パートは食い合わせが悪い」を地でいってしまう形になったように思います。

極論すれば戦闘パートとは、それまでとは全く別のゲームをやらせるということです。
そこを考えて、もう少し配慮や工夫といったものが欲しかったゲームですね。


得点６点


関連感想文
戦国の妹 七人の妹(Win)
キャッスルファンタジア(Win)


参考資料
桂枝雀『ちくま文庫 か 18-1　らくごDE枝雀』筑摩書房　1993年
前田圭士『ゲームシナリオライターの仕事　名作RPGから学ぶシナリオ創作術』ソフトバンククリエイティブ　2006年

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