I have a dream!

　無限のソウルを持つオズワルド出身の冒険者クーファが、夜眠れずに宿屋のベランダに出ると、
そこには山の様な巨体を筋肉の鎧で覆った精悍な男が一人たたずんでいた。
クーファとパーティーをくんでいるメンバーの一人、ボルダン族で剣聖と異名をとるレーグである。
てっきり女の子がいるとばかり思っていたクーファは、筋骨隆々の体を見るなり大きく頭を抱えた。
（あ〜っ、大外れだぁ！）
「………………。」
（しかもレーグだよ、レーグ。
俺が男のボルダンと逢引だなんて、喜ぶのはユーリスぐらいだぞ。）
「………………。」
（ちぃ、俺様の熱いアバンチュールが、こんな筋肉達磨となんて、間違いに決まってる！）
「………………。」
（俺様の予定では、ヒルダリア姐さんが、私と一緒に船に乗って！って俺の胸に飛び込んできたり、
ティアナ王女がティアナにはクーファ様が必要ですって、潤んだ目で告白してくれるはずだったのに。
きーっ！）
「………………。」
（せめて、レーグがツインテールの半裸のツンデレっ娘だったらなぁ…。
あぁ、なぜ現実のレーグはこんなにも半裸ムキムキマッチョメンなんだ…。）

　一人でパントマイムを繰り返した末、がっくしと肩を落とし、
血涙を流して天を仰いでいたクーファに、レーグが声をかけた。
「クーファ。」
「んだよ…。」
「魔の血を引くネメアですら我が剣を完全に防ぐことはできぬ。
脆き人の子のお前が我が剣を防ぐことは適わずはずだ。」
「んな事知るか。自分で考えろボケが〜。」
「が…うぬは我が剣を受けても立ち上がってきた。
なにが、お前にそれほどの力をもたらす…。」
「ふっふっふ。」
レーグの質問を聞いたとたん、クーファは不機嫌そのものといった表情から一変、
にや〜りと何とも言いがたい笑みを全身で浮かべた。
「ふぁーはっはっは！良くぞ聞いてくれました！
何故俺は強いか聞きたい？聞きたいでしょ？聞かせてあげようじゃない！
俺には夢があるからだ！その名もずばりっ！クーファちゃんのバイアシオン大陸総ハーレム化計画！」
「そうか…」
レーグの胸元に拳を高々と掲げクーファは言った。
「アイリーンのうなじっ！
カルラの尻っ！
ザギヴ将軍の絶対領域っ！
クリュセイスの髪っ！
アトレイアの唇っ！
アスティア母さんの膝まくらっ！
エステルの乳っ！
エア様とイークレムンとフレアのチラリズムっ！」
「それがうぬの力か…」
「フェルムちゃんもエリス王妃も密偵姉妹もユーリスも
セラの姉ちゃんもノエルとカフィンもオイフェもケリュネイアさんも
ルルアンタも未来のハンナも闘技場のネーちゃんも世の中の女は全部俺のもんだ！
ガルドランにもゼネテスにもツェラシェルにもロイにもレイヴンにもネメアにもやらん！
全部が全部俺のもんだ！」
「ちょっと、大声で恥ずかしい事を叫ばないで！」
「うぉっ、うなじの人だ！」
突然ベランダに赤毛の真面目そうな娘が飛び込んできた。
仲間の一人アイリーンである。
天敵の登場に、さしものクーファもぎょっとした表情を浮かべ、
思わずレーグの背に逃げ込んでしまった。
「レ、レーグてめー、お、お前のせいだぞ。
俺は聞かれたから答えただけなのに、何で俺が怒られるんだ。
くそ、俺が禁断の聖杯を手に入れた暁にはまず大陸から男という男をだなー！」
「レーグごめんね。今黙らせるから。」
「チョット待て。こら、そのグーで固めた拳はなんだ！
ちょっ、ボルダンの男衆も顔負けの女の武器を振り上げないで！
レルラーっ、助けてぇぇぇぇぇ！」
「っさいわね。早く部屋に戻るわよ！ばかっ！！」
「ぎゃっ！！」

　大きなたんこぶをつくり、アイリーンに首根っこを掴まれたクーファに、レーグが言った。
「その力が最強なのか…。それとも我が力こそが最強なのか…。
この旅の終わりに答えが出るだろう…。」
「ぉぅょ。」
クーファは右手の親指を立てつつも、ぐったりとした姿で、
アイリーンにずるずると引きづられ宿屋の奥へ消えていった。
そしてパーティーの残り一人、レルラ＝ロントンは騒ぎがひと段落すると、眠い目を擦り、
「オズワルド、魔人育ち、大馬鹿」
「剣聖＜竜殺し＜アイリーン」
と枕もとの紙に簡単にメモすると、大きな欠伸を一つして、
再び何事もなかったかのように布団の中に潜り込んだ。