ワーズ・ワース
各論編２-２
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「シャロン（２）」

あと、シャロンの造詣で見事なのは、シナリオ展開の一部をゲームシステムに組み込んで、
シャロンの心理状態の変化を主人公のレベルアップに仮託している事です。


●扱いが尻すぼみ
シャロンは影編最大のヒロインとして、ゲーム序盤から中盤は存在が重いのですが、
ゲームが進めば進むほど出番や話題に乗ることが少なくなり、
他の２ヒロインと比べて“繰り返し”が行われなくなっていきます。

ニーナは、影編光編の両方で二番手ヒロインの扱いで、物語の鍵を握り、重要な役割を演じます。
特に影編だと、アストラルの本命が婚約者のシャロンで、
ニーナはそれを知った上で体を許してくれる都合の良い２号と考えると
関係がわかりやすいでしょう。

ニーナは地下四階のイベントで、光の一族に襲われているのをアストラルに助けられて以来、
アストラルに強い好意を持ってくれるので、ひ弱だろうが大王のボンボンだろうが関係無く惚れています。
また光編では、唯一アストラルの生存を確信しているという立場です。

光編最大のヒロインであるミューは、ポルックスに危機を救われるという出会いから、
婚約者の居る身ながら、冒険の中でさらに距離が近くなっていくという、
ガチガチの正統派ヒロインで、しかも愛のイヤボーンもあります。
当然、光編では圧倒的に出番が多いヒロインです。


対してシャロンは、影編はアストラルに呆れていて、
影の一族最強の剣士であるカイザーと乳繰り合っています。

光編に突入すると、光の一族のファブリス（カイザーとシャロンが二人がかりで相手にならない程強い。光編では王）に
単身挑んで勝利するという偉業をなしとげるも、その直後に消滅してしまったアストラルを、ふっきれていない状態。
光編の主人公・ポルックスには、敵愾心剥き出しで話が進み、ポルックスになびくのはラスボスを倒した後になります。

このようにプレイヤーが操作するキャラクターと、すれ違いを続ける点に大きな特徴があります。

更に付け加えると、光編でのシャロンの発言やポルックスへの態度は、
影の一族の標準的な反応の範疇で、その他大勢になってしまっています。
オンリーワンの存在ではないため、光編のシャロンはシャロン一人がいなくても、
大勢に影響はないレベルまで存在感が落ち込んでしまうのです。

ラストバトル直前の「犯人探しイベント」でも、
全面的にポルックスの味方になって周りに抗弁するミューと、
ポルックスについて正鵠を射た発言をしているニーナに比べると、
シャロンはニーナとの痴話ゲンカ以外にこれといった出番はなく、空気です。

他の２ヒロインと比べて尻すぼみな構成になっているのです。


●パラメーターの成長を利用
ですが、恋愛劇に限らず、途中経過があまり描かれないというのは、
プレイヤーを置いてきぼりにしてしまう危険があります。

この場合だと、下手をすると前半はアストラルを選ばなかったクセに、
光編では急にカイザーから乗り換えるシャロンはとんでもない奴だ！と、
浮気性・多情云々とプレイヤーに反感を持たれかねません。

しかもシャロンの場合は光編の終盤（地下五階の最終決戦）にも、


    

        
［ポルックス］：
アストラルにそっくりな俺に・・・剣を向け

られるのか？

［シャロン］：
そっくりだからこそ・・・彼の事を忘れる為に

、あなたを倒したいわ。

［ポルックス］：
あまり気が進まないな。

［シャロン］：
あなたを倒し、アストラルの事は忘れて・・・

私はカイザーと結婚をするの。

［ポルックス］：
ふーん・・・俺には関係ない事だ。

［シャロン］：
私には関係のある事なのよ・・・あなたと共に

、アストラルとの思い出を全て消させてもらうわ！！
    
    

        
［ポルックス］：
ほーら、何度闘っても勝てないだろ？

［シャロン］：
私があなたに勝てなくても・・・カイザーがあ

なたを倒せば、アストラルの事を忘れられる。

［シャロン］：私は一番強い男が好き・・・カイザーが一番強

いなら・・・アストラルの事を忘れてみせる。

［ポルックス］：
・・・。

［ポルックス］：
あの女が誰と結婚しようが・・・俺には関係

ない事だ。
    


と、アストラルとの思い出に決別して、
カイザーと結婚する事をシャロン自身がのたまっていました。
（しかし同時に、ここに至っても「私は一番強い男が好き」と“繰り返し”てますね）

一方カイザーも、


    

        
［カイザー］：
あとはシャロンに、俺が一番強いことを証明する

だけだ・・・お前を倒せば、アストラルの事は全て忘れ、俺の

元に戻ってきてくれるだろう。
    


と、光編でも基本的には両想いです。
それどころか、阿吽の呼吸で同じ内容を喋ってます。

そんな状況にも関わらず、シャロンはラスボスを倒した後のヒロイン選択時で、


    

        
［シャロン］：
アストラル、私は強い剣士が大好き・・・あな

たは私の為に強くなってくれたのよね。

［カイザー］：
シャロン・・・お、俺は！？

［シャロン］：
カイザー、私は一番強い男が好きなの・・・残

念だけど、あなたはアストラルより全然、まったく、完全に弱

いわ。

［カイザー］：
そ、そんなあ・・・。
    


このように、あっさりとカイザーから乗り換えてしまっているのですから尚更です。

実際に、抜き出した文章だけでみると、
シャロンは、あっちへふらふら、こっちにふらふらして、
アストラルとカイザーの純情を弄んでいる女に見えかねません（笑
（ニーナやミューとのエンディングでは、シャロンはカイザーとよりを戻しています）


そんなシャロンの描写の少なさを、補うために利用されているのが、『ワーズワース』がＲＰＧであり、
パラメーターの成長がゲームシステムを構成する重要な要素。という点です。


    

        
［アストラル］：
やあ、シャロン・・・相変わらずきれいだね

。

［シャロン］：
私にそんなお世辞を言っても無駄よ・・・私は

ね、お世辞を言う男より強い男の方が好きなんだから。
    



    

        
［テッシオ］：
アストラル様、シャロンとうまくいかないのは

その指輪のせいじゃありませぬか？・・・シャロンは男らしい

男が好きという噂です。
    



    

        
［シャロン］：
私はね、強い男とじゃないとイヤなの・・・私と

キスをしたかったら、私よりもずっと、ずっと強くなって。
    


これら序盤のイベントを皮切りに影編はおろか、光編の最後になっても、
一番強い男が好きという性癖を“繰り返し”ておく事で、
後半になって、アストラルへの想いをふっきれなくなるという心理の変化が
プレイヤーが唐突に感じず、受け入れやすくなるように工夫しているのです。

この主人公が強いというのは、手塩にかけたプレイヤーが一番理解していることです。
なによりパラメーターの成長という、プレイヤーも“体験”する「主人公が強くなった証拠」があるので、
その分シャロンの感情のゆらぎにも説得力が生まれるのです。


このパラメーターの成長というものは、中々重要なキーワードで、


    

        
「ＲＰＧは、自分のキャラクターが成長する」
    


という虹色ディップスイッチの堀井雄二さんや


    

        
僕の最初の発想は『ドラクエ』から、（RPGの）レベルが上がる以外の部分をなくしちゃうゲーム。

「減らす」というコンセプトなんですよね。
    
    

        
シミュレーションゲームっぽくなっているけど、実は「移動しないRPG」という。
    


「蘇るPC-9801伝説」の赤井さんと岡田さんのインタビューの定義通り、
RPGをRPGたらしめている最大の特徴というべき部分です。

RPGには必ずパラメータの成長がありますし、
プレイヤーはプレイしている限り、どんどん主人公を強くしてくれます。
それだけに良い点に着目しているといえます。

勿論、つまらなかったらすぐ辞めてしまう、プレイヤーという飽き性な生き物が、
ゲームを途中で止めない様にする工夫は別途必要なわけですが……


●オレって凄い
またプレイヤー自身が主人公を鍛え上げたわけですから
プレイヤーが時間をかけて育て上げた主人公を
作中の凄い連中に、凄い凄いと褒められたり強い強いと言われて、
悪い気がするプレイヤーはあまり居ないでしょう。


    

        
あの極楽、あの絹にすごいって言われるオレってすごい
    
    

        
特に、このすごいキャラクターたちにアンタすごいねと言われるオレってやっぱすごいのかな、

と思ってもらうシチュエーションを作ってあげなきゃいけないんだ。

あの極楽、あの絹にすごいって言われるオレってすごいよねっと思ってもらう。

それしかやりようがないんだよね。
    


「ゲームシナリオライターの仕事」中の桝田省治さんインタビューで、
このような言葉があるのですが、まさにコレ。

『ワーズワース』でシャロンがふらふらするのも、早い話が主人公が「すごい」からなのでから
そういう理由づけでシャロンを攻撃する人は必然的に多くなくなるというわけです。


『ワーズワース』　総論編

各論編１　　アストラルとウォトシーカ
各論編２-１ シャロン（１）
各論編２-２ シャロン（２）
各論編３　　影のリングとアイテム欄
各論編４-１　　その他（１）
各論編４-２　　その他（２）

登場人物紹介(影の一族編)
登場人物紹介(光の一族編 〜影編から登場するキャラクター〜)
登場人物紹介(光の一族編２ 〜光編で登場するキャラクター〜)
登場人物紹介(その他の人物編)

登場人物 元ネタリスト
登場人物 元ネタリスト 補足

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